乳がんとは?
腫瘍は良性腫瘍と悪性腫瘍に大別され、「がん」は悪性腫瘍のうちの一つです。乳がんは原則「乳腺組織」に発生しますが、約9割は乳管(にゅうかん) に発生し、残り約1割は小葉(しょうよう) に発生します。
治療方針にかかわる重要なポイント「組織型」
「治療方針の決定に重要なのが「組織型」です。
がん細胞が乳管内(あるいは小葉内) に
- 内部に留まっているがん(非浸潤がん:ひしんじゅんがん)
- 基底膜を破って外部に拡がっているがん(浸潤がん:しんじゅんがん)
上記のいずれかを診断します。
※ 拡がることを浸潤(しんじゅん) といいます。
非浸潤がんの治療
浸潤していない場合は、手術で取りきることが重要です。
浸潤がんの治療
浸潤を伴っている場合、乳管(或いは小葉) の外部に存在する血管やリンパ管に、がん細胞が入っていく(脈管侵襲といいます)可能性があります。
がん細胞が血管内に入った場合、血流にのって全身に回ってしまいます。
つまり、浸潤がんは全身病と考えなければならず、治療の基本は全身治療、即ち薬物療法となります。転移を抑制することに寄与します。
乳がんに対する治療
乳がんに対する治療は、
- 非浸潤がんか浸潤がんのどちらであるか
- 転移を伴っていないのかいるのか
- 乳がんの腫瘍特性(サブタイプといいます)がどのタイプか
を考慮して考えます。
診断及び浸潤の有無
針生検により腫瘍組織を採取し、顕微鏡的診断(病理組織検査) によって診断されます。
がんの種類\治療法 |
薬物療法 |
手 術 |
非浸潤がん |
原則不要 |
必要 |
がんの種類\治療法 |
薬物療法 |
手 術 |
浸潤がん|他臓器移転なし |
必要 |
必要 |
浸潤がん|他臓器移転あり |
必要 |
原則不要 |
乳がん治療の種類と順番
一般的な治療方針
他臓器転移を伴わず、乳がんの腫瘍特性(サブタイプといいます) の悪性度が高い場合や、検査によってリンパ節転移が予測されるなど進行度が高い場合には、手術を前提とした術前薬物療法(化学療法やホルモン療法) が選択され、悪性度が低い、進行度が低い場合は手術が選択されるのが標準です。
当院の治療方針も同様で、一部の化学療法以外は当クリニックで診療しています。
薬物療法
乳がんの性格は、厳密には患者さんごとに「十人十色」です。しかし、臨床の場では免疫染色という試薬を用いて行う組織検査の手法によって、いくつかのタイプ(サブタイプといいます)に分類することができます。そのタイプに応じて、薬剤を選択します。
乳がんのタイプ
グループ |
女性ホルモンを
餌にするか否か
● |
HER2(ハーツー)
蛋白を作るか否か
■ |
Ki-67 蛋白が
高いか低いか
● |
Luminal(ルミナール) A |
する |
作らない |
低い |
Luminal(ルミナール) B |
する |
作らない |
高い |
Luminal(ルミナール) B |
する |
作る |
問わず |
HER2 陽性 |
しない |
作る |
問わず |
トリプルネガティブ |
しない |
作らない |
問わず |
悪性度の比較
グループ |
悪性度 |
Luminal(ルミナール) A |
低い |
Luminal(ルミナール) B |
高い |
HER2 陽性 |
高い |
トリプルネガティブ |
高い |
タイプ別-治療の推奨度
Luminal(ルミナール) A
治療の推奨度 |
化学療法 |
ホルモン療法 |
術前療法 |
△ |
○ |
術後療法 |
△ |
◎ |
Luminal(ルミナール) B
※ HER2(ハーツー) 蛋白を作らない場合
治療の推奨度 |
化学療法 |
ホルモン療法 |
術前療法 |
○ |
○ |
術後療法 |
○ |
◎ |
※ HER2(ハーツー) 蛋白を作る場合
治療の推奨度 |
化学療法 |
ホルモン療法 |
術前療法 |
◎ |
△ |
術後療法 |
◎ |
◎ |
HER2 陽性
治療の推奨度 |
化学療法 |
ホルモン療法 |
術前療法 |
◎ |
− |
術後療法 |
◎ |
− |
トリプルネガティブ
治療の推奨度 |
化学療法 |
ホルモン療法 |
術前療法 |
◎ |
− |
術後療法 |
◎ |
− |
術前化学療法の効果
症例:右局所進行乳がん
悪性度が高く、リンパ節転移を伴う状態に対し、術前化学療法を行った患者さんの画像です。その結果下記画像にように腫瘍の縮小を認めました。即ち、腫瘍の縮小により全身に播種している可能性のあるがん細胞に対しても、同様の効果があるものと推測されます。
化学療法前の乳がん
化学療法の効果により縮小した乳がん
乳がん手術後の定期検査
再発の場合も、早期発見が重要
10年以上たってからの再発も多い乳がん
手術によってがんを切除し、放射線療法や薬物療法をした場合でも、がんが再び発生してしまうケースがあります。これは、目では確認できないほどのがん細胞が、これまでの治療を逃れて残ってしまい、増殖してしまうためです。
がんは手術から5年以内の再発が多いとされていますが、乳がんはがん細胞の増殖が比較的ゆっくりであるという特徴から、10年以上経過しても再発のリスクがあります。
乳がんの再発は、
の2つに分類されます。
再発・転移の分類
局所再発
手術した側の乳房やリンパ節に発生するがん
遠隔転移
他の臓器(脳、骨、肺、肝臓など)に発生するがん
手術後のフォローアップ
乳がんの再発・転移はさまざまな場所で発症し、その症状も人それぞれ異なります。中には無症状の方もいらっしゃいますので、定期的な検査がとても重要です。
当クリニックでは、術後も
などの検査に合わせて、CTによる全身検査も実施しながら、術後のフォローアップを行なっています。
長く続く痛みや不調に注意を
がんはゆっくりと進行するため、がんが起因する痛みであれば、一度あらわれた症状がふと消えることは考えにくいとされています。「突然、痛みを感じて、しばらくしたら症状が落ち着いた」というケースは、がんではない他の原因を疑う場合が多いです。
とくに注意していただきたいのは「長く続く痛みや違和感」です。
- なんとなくだるいと感じる症状が1〜2週間続いている
- 強い痛みではないが、長く痛みが続いている
- しこりや腫れのような症状がみられる
以上のような状態が見られる場合は、再発を疑って早めに受診しましょう。