乳がんの病態と症状
乳がんの病態
乳がんは世界的に見ても女性が一番多く発症してしまうがんです。現在、乳がん患者さんは増加傾向にあり、9人に1人は生涯のうちに乳がんを患うというデータもあります。
乳房は、母乳を分泌する乳腺(母乳を作る小葉、母乳を運ぶ乳管)と、それを支える脂肪などからできています。乳がんは、この乳腺組織に発生し、増殖していくがんです。乳腺組織の中でもほとんどが乳管に発生しますが、小葉に発生することもあります。
「命を落とす率は低い」乳がん
増加傾向にある乳がんですが、一方で命を落とす率は他のがんと比べても低いことがわかっています。がんは確かに怖い病気です。しかし、乳がんは定期検査や検診をしっかり受けて、日常的に乳房をセルフチェックしていれば、早期に発見することができます。そして、早期に適切な治療を受けることができれば、命を危険が及ぶほどの病態にはなりません。
乳がんはさまざまな性質によって治療方法が異なるため、治療法の選択肢も多く、経過を長い目で見ていかなければならないという特徴があります。
まずは乳がんへの理解を深め、定期的なチェックや検診を欠かさず、いざというときはご自身にあった治療法と出会えるように、自分の体と向き合う時間を作りましょう。
主な自覚症状
乳房のしこり
乳がんが5mm〜1cm程度まで大きくなると、自分で触った時に、しこりに気付くようになります。
皮膚のひきつれや、凹み、くぼみ
乳がんが皮膚の近くに出てくると、えくぼ状のひきつれがみられ、赤く腫れることがあります。
脇の下のはれ、しこり
乳がんが脇の下のリンパ節に転移すると、しこりに指が触れるようになります。
神経が圧迫されて、腕にしびれの症状がでることもあります。
乳頭からの分泌物
乳頭を摘んだ際に、茶褐色の分泌物がでることがあります。
乳がんのセルフチェック
月に一度は、異常がないかを確認
鏡の前で見てチェック
両手を下げた状態と、両手をあげてバンザイした状態、2つのパターンでチェックをしましょう。
チェックのポイント
- 盛り上がっているところはないか
- 赤く腫れているところはないか
- 凹んでいるところはないか
- 皮膚のひきつれはないか
- 乳首から茶褐色や透明な分泌物は出ていないか
- 乳首がただれていないか
- 乳首が陥没していないか
触ってチェック
胸全体を満遍なく
検査する側の腕を上げて、指の腹を使って乳房をすくい上げるようなイメージで触ります。また、縦横に平行線を引くように、乳房の上を滑らせるように触ります。
小さな円を描くように触っていくと、しこりが見つかりやすくなります。鎖骨の下から胸全体を満遍なくチェックしましょう。外側は、脇の下まで触っていきます。
親指と人差し指を使って乳輪をつまみ、乳頭から分泌物がでないかもチェックしましょう。
寝て触る
寝て触る際も、検査する側の腕を上げて調べます。肩の下にタオルなどを入れておくと、乳房が広がって検査しやすくなります。
乳がんの再発
乳がんは、術後約10年は再発する可能性が高いとされています。10年以上経過した方でも、再発リスクがゼロになるという訳ではありません。また、たとえ再発ではなくとも、治療をした側ではない反対側の乳房に新たながんが出来てしまうことも決して珍しいことではないのです。
月に一度は乳房をセルフチェックして、もし異常があればすぐに乳腺疾患外来を受診しましょう。
乳がん検査のながれ
Step1乳腺疾患外来を受診
セルフチェックで乳房の異変に気付いた方、乳がん検診等で再検査になった場合は、乳腺疾患外来を受診してください。
乳腺疾患外来では、「乳がんを発見するための検査」が行われます。
- 問診/視診/触診
- 超音波検査
- マンモグラフィ
を実施します。
Step2病理検査
乳がんの疑いありと診断された場合、ここでは「がんを確定するための検査」として病理検査を行います。
しこりに針を刺して細胞や組織を採取し、
- 細胞診
- 組織診
を実施します。
Step3治療方針の決定
乳がんと診断された場合、「治療方法を決めるための検査」を行います。
ここでは乳がんの広がりや悪性度を調べ、治療法を決定していきます。
- CT
- MRI など
を実施します。
Step4手術/術後の治療方針の決定
治療方針の決定後は、術前薬物療法や手術療法を行います。また、手術によって摘出したがん細胞の病理検査を行い、さらに詳しくがんの性質を調べていきます。
乳がんには、いくつかのタイプ(サブタイプといいます)が存在します。そのタイプによって最適な薬物療法が異なります。
再度、病理検査をすることで、より効果的な治療方針を決定することができます。
術後の治療方針の決定
- 追加切除術
- 術後薬物療法
- 放射線療法 など
乳がんになったら
まずはご自身の体を知ることから
がんがみつかったから「早く治療を受けたい」と思うのは自然なことです。しかし、乳がんにはいろいろなタイプが存在し、治療法も多種多様です。そのため、乳がんの状態や性質を知り,それに合わせた治療を選択していくことが極めて重要です。まずは落ち着いて、現状のご自身の身体についてよく理解することから始めましょう。決して、むやみに急いで治療を始める必要はないのです。
告知を受けた際、そしていろいろと病気のことを知っていくと、がんになってしまったことによる不安や苦痛に襲われることがあると思います。そんな時は、不安に感じている思いを話すことから始めましょう。心配なことが重なると、不安や苦痛が増大し、何も手につかなくなってしまいます。
不安を抱えたままだと、気分の落ち込みが長く続いてしまい、ときに精神疾患にまで発展してしまうことも少なくありません。「こんなことを相談しても良いのかな」とは思わず、ネガティブな感情が膨らんで行く前に、早めにご相談ください。
ご相談の多い、がんによる不安や苦痛
- 身体的な苦痛
→ がんそのものの痛み、その他の身体症状 - 精神的な苦痛
→ 不安、恐怖、孤独感、また怒りや苛立ちなどの心の痛み - 社会的な苦痛
→ 経済的な問題、仕事や家庭など人間関係などによる苦痛 - スピリチュアルペイン
→ 死への恐怖、家族との別れ、自分の人生への意味、生きている目的
など
自分の体と向き合い、治療をしていくためには、まずはその現実をしっかりと受け止めて、平静になることがとても大切です。
そして「今できることは何か」を、一緒に考えていきましょう。
乳がんの再発
乳がんが再発したケースでは、再発した部位をはじめ、その程度や再発までの時間、これまで行ってきた治療法など、医学的に考慮すべきさまざまな要素が加わってきます。
そんな中で、「自分が何を一番大切にしたいのか」を患者さんと一緒に考えて行けたらと思います。
これからも、あなたがあなたらしい日々を過ごすことができるように、私たちスタッフが一丸となってサポートいたします。
自分らしく過ごせるように
病気の診断を受けると、自らの生活に制限をかけて過ごされる方が多いです。もちろん、体を労ることは必要ですが、制限をし過ぎてしまうと日々の生活が息苦しくなってしまいます。とくに適度な運動は、薬による副作用等の痛みを軽減する効果が期待できるほか、精神面のケア、健康体の維持には欠かせません。
がんと診断を受けた前の生活をそのまま送るのは、心身共に難しい場合もあると思います。しかし、これまでの生活でやりがいを感じていたこと、趣味や楽しみは、決して手放しすぎないようにしてください。
好きだったことや楽しかったことを持ち続けることは、生きていく上でエネルギーとなります。徐々に自分らしい生活を取り戻せるよう、諦めずに頑張っていきましょう。
家族との関わり
乳がんに限ったことではありませんが、家族の大切な一員が告知を受けると、家族の生活も一変します。家族としてできることは何か、どのように接してあげたらよいのかなど、家族にも精神的な負担がかかります。家族が患者さんと同じく、苦しみ不安を抱え、葛藤するのは当然のことです。お互い冷静になれずに、意見が対立してしまうこともあるかもしれません。
最終的に意思決定をするのは「患者さん」です。病気と向き合うために必要な情報は共有しあい、本人の状態を把握することにつとめましょう。本人の気持ちを、まずは大切にしてあげてください。
お子さんへの伝え方
「子どもに伝えるべきか」と、悩む方も多いです。子どもでも、家族の一員として、なんらかの形で病気のことを伝えられるのが望ましいと考えます。
お母さんが病気になってしまうことは、お子さんにとっても大変なことです。隠していても、子供なりに何かを感じ取り、不安を抱えてしまいます。
お子さんの年齢にもよりますが、治療に関する予定や日々の体調など、できる限り伝えてあげると、子供なりに理解し安心できるようになります。家族みんなで病気と向き合える環境が理想です。
親御さんへの伝え方
「告知を受けたことを伝えたら、親が心配しすぎてしまって…」というようなことは、よく起こることです。
ご家族の年齢や性格、これまでの親子関係を考慮すると、病気のことを伝えるベストなタイミングは人それぞれです。
決して曖昧な情報を伝えるのではなく、
- 病気のこと
- 体の状態、症状
- 治療の見通し など
患者さんご自身がしっかりと知識を得て、家族からの質問にお答えできるようになったタイミングでお伝えするのが良いと考えます。一つの目安になれば幸いです。